2013-11-25

吉田物語

願わくはこれを語りて非寮生を戦慄せしめよ

今日は昼前に吉田寮にやってきて、探索を行った。目的は、この場所の現状の記録と、話の収集である。

吉田寮は外から見ると、まるで廃墟同然だが、中からみても、やはり廃墟同然だ。ただし、そこには紛れもなく人間が生息している。

庭には、様々な動物が、食用として飼われている。私が確認した限りでは、ニワトリとヤギとウサギとエミューがいる。ネコもいるのだが、これはさすがに食用ではないだろう。

ここでは、あらゆるものが乱雑に放置されている。盗まれることもあるらしいが、果たしてどれが私物で、どれが捨てられているのか、そのへんは明確ではない。

ここでは、食べ物には所有の概念がないらしく、食べ物を放置していると、しょっちゅう食べられる。私の取材し得たO氏からは、炊飯器にご飯を炊いておき、いざ食べようとフタを開けたら、すでに誰かに食べられて空っぽだった事例を収集した。

ただし、ここで私が収集し、これから私が物語る話を読めば、むしろ食べてくれたほうがいくらかありがたいことを知るであろう。

決して開けてはならぬ封印されし炊飯器のこと

まだ遠からぬ昔、吉田寮入り口付近に、炊飯器が放置されていたそうだ。いつから放置されていたのか、正確に知るものはいない。数カ月かもしれないし、数年かもしれない。とにかく、長い間放置されてきたことに疑いはない炊飯器だ。問題なのは、その炊飯器には、どうやら中身が入っているらしいというのが、住人の間の暗黙の了解であった。

かくして、その炊飯器は、決して開けてはならぬ禁断の炊飯器として、長らく封印されてきた。まるで、魔封波を受けたナメック星人が封じられているとでも言わんばかりに、避けられてきた。

しかし、いつまでもかの封印されたる炊飯器を入り口に置いておくわけにはいかぬ。いずれは開けねばならぬこととて、とうとう、開封の儀を執り行う次第に決まった。

皆が万全の体制(無論、逃走の用意である)で見守るなか、決して開けてはならぬ炊飯器が開かれた。彼らは一体、何を見たのであろうか。

残念ながら、私がこの話を収集した某氏は、この続きをはぐらかして語ろうとしない。単に固まったご飯が入っていたという者もあり、黒いものが入っていたという者もあり、液状の何かが入っていたという者もあり、虫がたくさん湧いていたという者もあり、その詳細は判然としない。

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