2012-12-10

米国版スーパーファミコンの完全なコレクションがオークションに出された

もし、世界一のスーパーファミコンのオタクを挙げるとすれば、byuuである。

byuuはスーパーファミコンのソフトの保存活動をしている。すべての認可を受けて販売されたスーパーファミコン用の商用ソフトを、箱と取扱説明書も含めて収集し、保存活動をしている。保存というのは、単に物理媒体を保管するだけではない。箱と取扱説明書をスキャンし、ROMイメージをダンプし、保管するのだ。著作権が切れるその日まで。

また、byuuは、ソフトごとのハックなしに、スーパーファミコンの実機とサイクル一致ですべての商用ソフトを実行できる、現在のところ世界一精度の高いスーパーファミコンのエミュレーターである、bsnesを開発した。

このbsnesの開発というのも、確か昔読んだ話によれば、かなり理想主義の事情がある。

スーパーファミコン版ドラゴンクエスト5は、海外にはローカライズされなかった。一般に、当時、日本の任天堂がゲーム業界を支配していた頃、日本はゲームの天国であった。多くの良ゲーは、海外では販売されなかったし、またかろうじて販売されたソフトも、翻訳の質がひどかた。今、日本はゲーム業界で死んでおり、良ゲーは外国産のみになってしまったので、その当時のアメリカ人の苦悩を、今日本人が実感できるわけだが、それはさておき。

昔、byuuはドラゴンクエスト5の非公式英語翻訳をしていたが、エミュレーターでは動作する改変が、実機に持って行くと正しく動作しない。これは、エミュレーターが実機を正しくエミュレートできていないためである。byuuはエミュレーターを改良し、パッチを投下したが、そのパッチが受け入れられることはなかった。何故ならば、そのパッチを取り入れ、実機の再現性を高めた結果、従来の多くの非公式翻訳が動作しなくなってしまうからだ。

「それはおかしい」とbyuuは考える。実機を正しく再現できてこそエミュレーターであり、実機で動かないプログラムには、何の価値もない。

そのため、byuuは最も精度の高いスーパーファミコンのエミュレーターを開発することになる。そのbyuuのエミュレーターは、今や、すべてのスーパーファミコン用の商用ソフトをソフトごとのハックなしに実機とサイクル一致で実行できる質に達した。

ハードウェアを完全に正しくエミュレートするというbyuuの理想は、そのエミュレーターにあらわれている。通常、スーパーファミコンのような、アナログ信号を出力するハードウェアをエミュレートするには、パフォーマンス上の都合から、スキャンライン一本をまとめて処理するのが一般的である。ところが、byuuによれば、本当のスーパーファミコン実機の挙動は、そうではないという。本当のスーパーファミコン実機は、ピクセルごとに独立してリアルタイムで処理している。ところが、そのような実装にすると、パフォーマンスが著しく悪くなる。なぜならば、スキャンラインベースの実装ならば、秒間あたり15.75khz程度の更新なのだが、本当のクロックベースにすると、10.75mhzほどになるという。しかし、一秒間に一千万回の更新を大真面目にソフトウェアで実装すると、コンテキストスイッチだけで相当のパフォーマンス劣化を引き起こしてしまう。そのため、パフォーマンス重視の設定ではスキャンライン実装を使い、精度重視の設定では本当のクロックベースのクソ遅いがクソ真面目な実装を使うのだそうだ。

The State of Emulation, pt. II

そのbyuuが、アメリカで発売されたスーパーファミコン用ソフトの完全なコレクションをオークションにかけるという。

For Sale: Complete US SNES Collection : gamecollecting
Complete US Super Nintendo SNES Collection with All Boxes and Most Manuals | eBay

すべてのソフトに箱がついていて、85%は取扱説明書もついている。また、すべてのソフトウェアは、プロフェッショナルにクリーニングされ、動作確認も行われているそうだ。

掛け値は24,999ドルから開始すると宣言している。

一体、何がそこまで人を駆り立てるのか。オタクの考えることは分からない。

No comments: