2012-07-17

SteamがUbuntu GNU/Linuxに進出すると公式発表

Steam’d Penguins | Valve

SteamがGNU/Linuxをサポートするのではないかという噂は、Steamクライアントに明らかにGNU/Linux用と思われるものが含まれていたことで始まった。すでに、PhoronixがSteam社まで出向いて、噂が実際その通りであることを広めた。しかし、Phoronixの中の人に、開発中のSourceエンジンでL4Dが動くところを見せたり、ざっくばらんな話をしたといPhoronixが証言する割には、Steamは沈黙を守ったままだった。どうやら、ようやく公開してもいいところまで来たらしい。

発表によると、Steamがまずサポートするのは、Ubuntu GNU/Linuxである。まあ、Ubuntuというディストロは、数あるGNU/Linuxベースのディストロの中でも、特に知名度が高く、広く使われている。どうせ不自由なソフトウェアであろうSteam側からしたら、ディストロを固定したいのは分かる。

さて、読者がすでに自由なソフトウェアの価値に目覚め、自由なOSとその上で動くソフトウェアのみを使っているのならば、Steamを使ってはならない。Steamクライアントとゲームを構成するソフトウェアがすべて自由なソフトウェアであると確認するまでは、使ってはならない。不自由なソフトウェアは利用者の自由を不当に制限するものであり、非人道的だからだ。

しかし、今もし、不自由なMicrosoft WindowsとかApple Mac OSとかiOSなどを使っている場合は、これをきにUbuntu GNU/Linuxに移行するのは、マシである。なぜならば、不自由なOSの上で不自由なソフトウェアを動かすより、自由なOSの上で不自由なソフトウェアを動かす方が、まだいくらかマシだからだ。もちろん、自由なソフトウェアのみを使うのが望ましいのだが。

ところで、Ubuntu GNU/Linuxを今からインストールするが、不幸にしてnVidiaのGPUを使っている読者に助言がある。nVidiaのGPUには自由な実装のドライバーが欠けている。Nouveauは、残念ながらゲーマーが好む最新のGPUでは、起動すらしない。そのため、Ubuntuの通常のインストールディスクを起動するには、KMS(Kernel Mode Setting)を無効にしなければならない。Ubuntu GNU/Linuxのインストールディスク(あるいはUSBメモリー)を起動する際に、ブート画面でF6を押し、"nomodeset"と入力する。これにより、KMSを無効化でき、描画のパフォーマンスに問題はあるものの、とりあえずはUbuntu GNU/Linuxのインストールを進めることができる。

もちろん、インストール後もドライバーの問題がある。KMSが有効になっている限り、10年ぐらい前のnVidiaのGPUを利用しているのでもない限り、nVidia公式の出している制限されたバイナリブロブを使わなければ、まともに動かない。nomodesetを恒久的に指定するには、GRUB2の設定ファイルを書き換える必要がある。ただ、そこまでしても、やはり、Xを動かすには問題が多い。

ただし、ゲーマーにとっては、AMDも似たようなものである。AMDは仕様の一部を公開しているため、自由なドライバーの開発はnVidiaより進んでいる。しかし、残念ながら、Xを動かすには十分なパフォーマンスという程度であり、ゲーム用途には使い物にならない。そのため、ゲーマーは公式の不自由なバイナリブロブを入れたがるだろうが、AMDのドライバーの質は悪い。最新のGPUをサポートするのに半年かかったり、4,5年前に発売された、いまもまだ店頭に並んでいるような製品のサポートを打ち切ったりと、非常に悪い。もっとも、Ubuntu GNU/Linuxの不具合報告の大ハンは、nVidiaのドライバーの不具合で占められているという話もあるので、結局どちらも利便性では大差がないのだが。

IntelのSandy BridgeやIvy Bridgeの内蔵グラフィックには、Intel公式に自由なソフトウェアのドライバーが出ている。もとより、IntelのLinuxカーネルやOpenGLスタックのMesaへの貢献は多く、いまPCで現実的に使えるGPUの中では、もっとも自由に近い存在であると言える。ただし、残念ながらパフォーマンスは、専用グラフィックカードとは比べ物にならないほど低いので、Xを動かすには問題ないが、ゲーム用途には苦しい。

もっとも、あと10年ほどすれば、回路の集積度も頭打ちになり、内蔵GPUと外部GPUのパフォーマンスの差は気にならないほど縮まるのではないかと思う。

なぜSteamが、ここまで熱心にGNU/Linuxへの対応を進めているのという疑問への考察は、本の虫: なぜValveはGNU/Linux対応を急いでいるのかを参照してほしい。

思うに、これからはソフトウェアの配布システムを公式に提供するのが当然になる。Appleはすでに配布システムを持っているし、Microsoftも話によると提供する予定だ。つまり、AppleやMicrosoftのOS環境向けのゲーム配布システムであるSteamは、敵の土台で勝負しなければならないことになる。敵の土台である以上、Steamは圧倒的に不利である。

そのため、GNU/Linux環境に活路を求めるのは理解できる。残念ながら、不自由なソフトウェアにこだわる部分は一切理解できないのだが。ゲーム以外のソフトウェアも配布する予定ならば、なおさら自由なソフトウェアであることが重要になってくる。

さらに、ストールマンの見解も参照。

本の虫: ストールマン:不自由でDRM付きのゲームがGNU/Linuxに来ることの是非について

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