2010-08-26

耳袋

1824年生まれの人が、記録の上では生存しているらしい。歴史的に、日本は国民を相当に記録している。それがたまに、こういった面白いことにもなるのだろう。

ところで、私は「耳袋」という本を持っている。この本は、ちょうど1800年前後に、当時の筆まめな奉行によって書かれた説話集である。私の持っている岩波文庫の本は、第二版である。初版発行が1939年で、その翌年に発行されたものである。この本は、私より長生きしているわけである。もっとも、私の本棚には、私より若い本というのは、めったに無いわけなのだが。

この岩波文庫には、柳田國男も編者を努めており、序を書いている。最初、何か馴染みのある文だと思いながら序を読んでいたら、最後に柳田國男の名前が記してあり、合点した。

序では、「耳袋が書かれてから約120年たっていて、現代人には読みづらくなっている」と書いている。今では、200年近くたっているわけだ。

また、言文一致という観点からみれば、当時より、1939年の方が退歩しているという。もちろん、耳袋の文章はまったくの口語というわけではないが、当時、改まって物を言う時は、こんな話し方をしていたと柳田國男は言っている。

私は幸いにして、読解力に恵まれているのか、耳袋の文章は普通に読める。もっとも、岩波文庫では、いくつかの漢字をひらがなにしている。たとえば、(など)とか、(あっぱれ)とか、與風(ふと)の類だ。そういえば、柳田國男の文章も、現代人には読みづらくなっているらしい。不思議なことだ。柳田國男など、つい先日まで生きていたではないか。

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