2008-03-04

第十一段

昨日のこと、東山郵便局に用ありて、下棟梁町といふ所を過ぎること侍りしに、心細く構えたる食物店あり。手打ちうどん・そばと看板を掲げたり。

かくてもあられけるよと、あわれに見るほどに、壁に多きなる張り紙のありしが、「フジテレビで紹介されました」と書かれたればこそ、すこしことさめて、この張り紙なからましかばと覚えしか。

そも、食物店の前が臭しは如何にと、怪しがりてよりてみるに、コーラの瓶の、幾年ほどは放り置かれたるが故なり。先の張り紙も、幾年か経たるに、色あせてぞみえける。にわかに冒険の心起こりて、「我、いまだ食物店に過ちすることあらず。ひとつ試してみん」とて、入りにけり。

中には年の頃四、五十ばかりなるをのこのありしが、店主なるべし。茶など出されたるが、ゆのみにひびが入りたりしこそ、我が期待に違わずとでも言うべけれ。味は敢えて我が筆を試みることなし。これぞ我が人生初の、食物店の過ちなるべし。

No comments: