2010-06-26

炊くという言葉について

()く」という言葉を聞いたとき、まず思い浮かぶのは、米を水と共に加熱して、食味を増す調理法である。あるいは、「煙を炊く」という言葉もある。これによって、発炎筒も「炊く」ものである

ところが、この炊くという言葉には、現代では、色々と不思議な文脈で使われているのである。

例えば、「カメラのフラッシュを炊く」という言葉がある。意味は、カメラのフラッシュを光らせることである。なぜ炊くというのか。どうやらこれは、昔のカメラのフラッシュというのは、マグネシウムを燃やして、文字通り炊いていたらしいのである。フラッシュが電化された現代においても、この言葉は、慣習的に生き残った。

ところで、今流行の「自炊」という言葉がある。本来の意味は、自分で料理をすることである。しかし最近は、自分で本をスキャナにかけて電子化することをも指す。しかし、何故「自炊」というのか。

この言葉は、昔、WinMXやWinnyが全盛期だった頃、雑誌などを、自分でスキャンしてアップロードすることを、「自炊」と呼んでいた歴史があるから、今でも定着して使われているのである。しかし、なぜ自炊というのか。自力とか自弁などという言葉でもいいではないか。調べた結果、どうも二つの説があるようだ。

ひとつの説。慣習的に、ホームレスにその場で調理した食事を与えることを、「炊き出し」という。炊き出しという言葉は、別にホームレスに食事を与えることだけを意味しないのだが、やはりそのイメージは強い。この言葉を借りてきて、本をスキャンしてアップロードすることをも、「炊き出し」と呼んだ。炊き出しを受ける者は、ただダウンロードするだけのネット乞食である。而して、このスキャンすることを、「炊く」といい、自分でスキャンすることを、「自炊」と呼ぶようになった。

もうひとつの説。WinMX以前の太古より、ゲームのカートリッジのROMイメージをダンプすることを、「吸出し」と呼んでいた。これを自分で行うことを、省略して、「自吸(じすい)」と書き表していたが、そのような言葉はない。IMEの変換候補に現れるのは、「自炊」であった。そこで、自炊という表記が定着した。そこから、本をスキャンすることを、炊くと呼ぶようになった。

どちらが正しいのか、よく分からない。まず一つ目の説だが、もしこれが正しいとすると、あらゆる著作物の違法なアップロードは、「炊き出し」と呼ばれてしかるべきである。なぜ本のスキャンだけが炊くと呼ばれるのか。手間がかかるから、特別に炊き出しという言葉を用いたのか。

二つ目の説、ROMイメージをダンプすることを、吸出しと呼んでいたことは、相当古い歴史がある。しかし、なぜその言葉を、本のスキャンに用いようとしたのか。ROMイメージのダンプを吸出しと呼ぶことは、感覚として理解できる。しかしなぜ、ROMイメージのダンプ以外にも、自炊という言葉を使おうとしたのか、よく分からない。あるいは、スキャナーは強い光を出して紙をスキャンするわけだから、カメラのフラッシュを炊くという言葉が存在した関係上、炊くという言葉に、あまり違和感がなかったのだろうか。

それにしても、自炊という言葉が現れたのは、この十年のことである。たとえば、五年ぐらい前に、2chのDownload板にでも、「やい、藻前ら、漏れに自炊の語源を説明汁」とでも書き込めば、多くの、「半年ROMってろ」というレスとともに、答えも得られたはずである。しかも、多くの者はその語源をすら忘れている。最近の言語の進化の速度は、驚くべき速さであるという他ない。そういえば、2chでは、もはや極端なleet speakは見られない。これも、自然言語を考える上では、興味深い。

5 comments:

  1. 後者の説が正しいと思いますが、中間にCDの吸出しがあり、その後、DVDや出版物に発展していったものと思います。

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  2. 当時の2ch語の流行りから考えて、IMEによるバカな変換をそのまま使うという後者の説の方が、それらしいのではないかと思ってはいました。
    しかし、CDって吸出すものかなぁ。
    いや、それを考えたら、ROMイメージのダンプも、所詮は読み出しですが。

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  3. フラッシュを炊く→ストロボを炊く 

    フラッシュが電された→電されたものがフラッシュなのでおかしい

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  4. あまり関係ないですがフラッシュは「焚く」ですよ

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  5. そういえばそうだったw

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